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日本とEUに見る電子書籍市場の違いと、EU向けに売れるEPUB設計の条件
――EUで売るために必要な「EAA準拠」という視点
日本とEUでは、電子書籍市場の規模以上に、その市場構造とアクセシビリティに対する法的な位置づけが大きく異なります。
1. 市場構造の圧倒的な差
日本の電子書籍市場は世界有数の規模を誇りますが、インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2024』によると、 市場の約90%(5,081億円)をコミックが占めています。 文字もの電子書籍は、紙のレイアウトをそのまま画像化した固定レイアウトや、特定プラットフォーム向けに最適化された仕様が多く、 国際標準であるリフロー型EPUBの普及は限定的です。
対してEU市場では、ドイツの「Tolino」、フランスの「Fnac」など、Amazon以外のローカルストアが強い存在感を持ち、 共通言語としてリフロー型EPUBが徹底されています。 主役はあくまで文字(小説・学術書・ビジネス書)であり、読者はデバイスを問わず、文字サイズの変更や音声読み上げを活用して 読書することが一般的です。

2. 2025年、欧州アクセシビリティ法(EAA)の衝撃
EU市場を考えるうえで、避けて通れないのが欧州アクセシビリティ法(EAA)です。
2025年6月28日以降、EU域内で提供される電子書籍には、高度なアクセシビリティ対応が法的に義務づけられます。
具体的には、次の要素が不十分なEPUBは、販売制限や是正対象となる可能性があります。
- 適切な見出し階層(H1、H2 など)の構築
- 音声読み上げ(Text-to-Speech)への対応
- 画像への代替テキスト(alt属性)の付与
- 色コントラストやナビゲーションの明瞭さ
EUにおける「売れるEPUB」とは、単に読みやすい本ではありません。
法的に適合し、誰にとってもアクセス可能であることが、最低条件なのです。
3. 日本発コンテンツをEUで成立させるために
日本語のままでは市場は限定的ですが、英語化・多言語化を前提に、最初から国際標準の設計で制作すれば、 日本発コンテンツにも十分な可能性があります。
重要なポイントは以下の通りです。
- 完全なリフロー設計
固定レイアウトから脱却し、多様なデバイスでの可読性を確保する。 - セマンティックHTML
意味を正しく伝える構造を持たせ、検索性とアクセシビリティを高める。 - メタデータの最適化
Schema.orgなどを活用し、アクセシビリティ情報をストアに正確に伝える。
日本は「漫画特化で独自進化した市場」、EUは「法規制の下で標準化が進む王道の市場」です。
EUで電子書籍を売るということは、翻訳の壁を越えるだけでなく、 グローバルなアクセシビリティ基準という“審査”を通過できる設計力を備えることに他なりません。
クリエイティブ事業部 山下剛正