株式会社 HRコンシャス

人的資本経営の前に、会社の「人間観」を問う

— 人事評価の運用に現れる「経営の思想」 —

人的資本経営という言葉が一般化し、開示項目の整備や人材施策の拡充が進んでいます。研修を増やし、制度を改定し、仕組みも導入する。

それでも「現場が変わらない」という声が残る企業は少なくありません。

理由は、施策が足りないからではありません。

人的資本経営は、会社の考え方を日常に落とし込んでこそ意味があると感挙げます。そして、それが最もはっきり表れる場面が人事評価といえます。


「人事評価」は会社の人間観が見える場

どの会社にも、人に対する前提があります。たとえば、

  • 人は信頼されると伸びる存在か

  • 失敗は学びか、ペナルティか

  • 成果は個人の手柄か、チームと仕組みの成果か

  • 成長は本人の責任だけか、上司・会社の責任も含むか

こうした前提を、ここでは「人間観」と呼びます。

社員は理念を読んで会社を判断するより、日々の扱われ方で判断します。

その扱われ方が最も濃く表れるのが、評価と育成です。

評価は処遇を決める手続きである以前に、会社が社員に向けて発するメッセージです。

「何を大事にしているか」「どう信じているか」が、評価の場面で伝わってしまいます。


人的資本経営を「循環」で設計する

人的資本経営を経営の言葉に翻訳すると、以下の循環をつくることです。

  1. 期待を明確にする(役割・成果の定義)

  2. 支援する(成長の条件を整える)

  3. 価値が生まれる(成果・学びが蓄積される)

  4. 公正に認め、分配する(評価・処遇が説明可能である)

  5. 信頼が積み上がり、挑戦が増える(再投資できる)

この循環が回って初めて、「人への投資が企業価値になる」状態が成立します。

止まりやすいのが、4番目の「公正に認め、分配する」=評価運用です。

ここで納得感が崩れると、組織は静かに弱くなっていきます。

  • 何を頑張れば良いか分からない

  • 失敗が怖くなり、無難な行動が増える

  • できる人ほど離れやすくなる(市場価値の高い層から先に)

制度自体ではなく、運用の現場で「公正さが伝わっているか」が問われます。


フェアとは「同じ」ではなく「納得できる」こと

フェアを平等と捉えると、現場は詰まります。

職種や難易度、期待役割は同じではないからです。

現場が求めるフェアは、次の4点です。

  • 期待が明確である(何が求められる成果・行動か)

  • 判断が説明できる(印象ではなく事実で語れる)

  • 途中で軌道修正できる(期末に突然知らされない)

  • 成長に接続している(次の一手が具体的に分かる)

社員が欲しいのは「甘い評価」ではありません。「納得感のある評価」です。


評価運用の3条件

経営として設計すべきポイントは、次の3つです。

1)期待(役割)を揃える

評価が荒れる最大要因は、能力差よりも期待の不一致です。等級・役職ごとに「何を成果とみなすか」「何を優先するか」を、経営の言葉として揃えることが出発点です。

2)評価を“年1回のイベント”から“日常の運用”へ

育成につながる評価は、「途中の対話」が前提です。長い面談よりも日々の短い対話の積み重ね。「事実→解釈→次の一手→支援」を月次で積み上げるほど、評価はフェアになります。

3)評価を“本人の通知表”で終わらせない

評価は部下の査定であると同時に、上司の育成責任が問われる場でもあります。上司が育成の当事者になった瞬間、評価は属人性から離れ、納得感が上がります。


人的資本経営の差は、日常の評価の納得感

人的資本経営は、開示すべき指標を整えることだけではありません。

会社が人をどう見ているかという前提=人間観を、評価・育成・配置・処遇の運用に落とし込み、日常として回すことです。

社員が「ちゃんと見てもらえている」「説明がつく」「次が分かる」と感じられる企業では、信頼が積み上がり、挑戦が増え、結果として企業価値が伸びます。

逆に、制度だけ整えて運用が弱い企業では、信頼が目減りし、成長の循環が止まります。

だからこそ、人的資本経営という言葉の前に、まず問うべきです。

「私たちの会社は、人をどう見ているのか。」

そして、その人間観は評価運用という日常の現場で、実際に伝わっているのかを、丁寧に観察していくことが大切だと思うのです。

 


この記事を読んだ方へ

評価制度そのものを変えなくても、評価運用の設計で納得感と育成効果は大きく改善できます。

貴社の状況に合わせて、以下の観点で現状整理と打ち手設計をご支援できます。

  • 評価が「育成」につながらないボトルネックの特定

  • 役割期待(等級・役職)の言語化と整合

  • 1on1面談(短時間・高頻度)の仕組み化

  • 評価者の“観点”統一と運用定着支援

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